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広島家庭裁判所三次支部 昭和46年(家)196号 審判

申立人 井上綾子(仮名) 他二名

相手方 清水史男(仮名)

主文

1  別紙目録(一)記載〈1〉ないし〈9〉の不動産は相手方清水史男の取得とする。

2  相手清水史男は、申立人井上綾子、同木村克己、同松本めぐみに対し、それぞれ金九二三万七、六二五円ずつならびに上記各金員に対する本審判確定以降完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

3  鑑定費用金二五万七、〇〇〇円は各当事者がそれぞれ四分の一ずつを負担する。

理由

一、申立の実情

(1)  被相続人清水勇(以下単に亡勇と称する)は別紙目録(一)記載〈1〉ないし〈9〉の不動産を所有し、昭和四四年一一月二日死亡した。

(2)  相続人は亡勇の子である申立人井上綾子、同木村克己、同松本めぐみと相手方の四名で、各相続人の相続分はそれぞれ四分の一であるから各相続分に応じた分割を求める。

(3)  別紙目録(二)記載〈1〉ないし〈8〉の不動産は相手方が件外木村等から売買により取得したことになつているが、当時相手方にはそのような資力はなく、亡勇が別紙目録(一)記載〈5〉ないし〈9〉を購入・建築のさい同時に購入・建築したうえ、相手方が長男であるところから生計の資本として贈与することとして相手方名義に登記したものであるから、生前受益として民法九〇三条により相続財産に持戻し、同人の本来の相続分を算出すべきものである。

なお、申立人らは亡勇の生前、何らの贈与もうけていない。

二、相手方の主張

別紙目録(一)記載〈5〉ないし〈9〉および同(二)記載全不動産は、全部相手方が自分の資力で購入・建築したもので事実上相手方の所有にかかるものであるが、別紙目録(一)記載〈5〉ないし〈9〉の不動産は便宜上亡勇名義としたにすぎない。しかも相手方は昭和一二年に相続税を支払い(実際に支払つたのは亡勇)亡勇の家督相続をしているので、別紙目録(一)記載〈1〉ないし〈4〉の不動産を含め亡勇名義の財産はすべて相手方に所有権が移転しており、申立人らの本件申立は理由がない。

三、当裁判所の判断

1  相続人と法定相続分

本件記録によると、亡勇が昭和四四年一一月二日死亡し、申立人井上綾子、同木村克己、同松本めぐみと相手方が亡勇の遺産を相続したことが認められる。したがつて各相続人の法定相続分は、各四分の一である。

2  遺産の範囲

(イ)  各当事者、参考人木村等各審問の結果および本件記録中の資料によると、別紙目録(一)記載〈1〉ないし〈9〉の各物件が亡勇の所有に属し、遺産であることが認められる。

(ロ)  相手方主張の相続税の支払および家督相続について案ずるに、まず相続税の支払については、当時の法令(相続税法二三条)によれば、不動産および船舶以外の財産について親族に贈与がなされた場合、その贈与の価格が金一、〇〇〇円以上であるときは遺産相続が開始したものとみなして相続税(同法八条)が課せられることになつており、土地を買い、また家を建てるための資金の贈与も右に言う「不動産および船舶以外の財産」に該当するものといえる。とすれば、各当事者、参考人木村等各審問の結果から総合して、該相続税は別紙目録(二)記載〈1〉ないし〈8〉の物件の購入・建築に要した資金を亡勇が相手方に贈与したことに対して課せられたものであることを推認することができる。

次に家督相続についてみるに、本件につき家督相続がなされたとすれば、当時戸主であつた亡勇の隠居によるもの(旧民法九六四条)となるが、当時の法令によれば戸主の隠居は満六〇歳未満のときは裁判所の許可を必要とし(同法七五二条、七五三条)、しかも、その効力は戸籍吏に届出ることによつて生じる(同法七五七条)ところ、本件添付の改製原戸籍謄本によれば亡勇の隠居および相手方の家督相続の事実は認められない。

3  相続人の特別受益

申立人らは、別紙目録(二)記載〈1〉ないし〈8〉の物件は亡勇が相手方に対し生計の資本として生前贈与したものである旨主張するので考えてみると、登記簿謄本によれば、上記〈1〉ないし〈7〉の各物件は相手方が件外木村等から購入し、また同〈8〉の物件は相手方が建築したことになつているが、前記2の(ロ)前段に述べた理由により事実上亡勇から相手方に対し譲渡されたものであることが認められるけれども、各当事者および参考人木村等各審問の結果によると、相手方は前記購入・建築以前から亡勇と力を合わせて家業に従事しており、家運の興隆に努力してきたため、亡勇は相手方の労に報いるために上記物件の所有名義を相手方としたことが推認できる、とすると右贈与は生計の資としての贈与とは認められない。

4  相続人の特別寄与

相手方が亡勇の長男として亡勇が本件遺産取得後、長年にわたり亡勇から何らの報酬や贈与を受けないで家業を手伝い、特に終戦前後の混乱期以後、すでに老齢であつた亡勇を扶けて母屋を改築するなど遺産の維持に寄与した役割は相当高く評価される。従つて相手方はその寄与分に相当する潜在的持分を本件遺産の上に有するというべく、その持分の割合は諸事情を考慮し、二分の一をもつて相当と考える。

5  分割

遺産分割のための遺産の評価は分割時すなわち審判時に近接する時価によると解されるので、時価の評価を鑑定人服部二郎に命じたところ、その鑑定の結果によると本件遺産の価格は総計で金七、三九〇万一、〇〇〇円であるが、前記4の相手方の特別寄与分を控除すれば

金3695万500円(7390万1,000円×2分の1)

となり、これが本件遺産分割の対象となる価格である。

次に分割の方法としては、本件遺産は合して一つの不動産の形状をしており、その奥行自体が全体として長大であることから現物分割は適当でなく、また共有とすることも後日の紛争が予想されるので適当でなく、結局債務負担の方法によるべく、相手方は他にも不動産を所有して支払能力もあるので相手方は全不動産を取得するとともに、申立人らは各自の取得分に応じた債権を取得すべく、相手方は申立人井上綾子、同木村克己、同松本めぐみに対し、それぞれ

金923万7,625円(3695万×4分の1)

ずつを支払うべきものとする。

四、結語

以上の次第であるから家事審判規則一〇九条を適用して債務負担の方法により相手方に対し、申立人らに上記認定の金額の支払を命じ、かつ本審判確定後完済まで民法所定年五分の利息を上記金額に附加して支払うべきものとし、鑑定費用の負担について家事審判法七条、非訟事件手続法二七条を適用し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 川上広蔵)

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